3歳
夏子さんの子供は、3歳の誕生日を迎えるまで、散髪が要らなかった。産まれてから、なかなか髪が生えなかったのだ。初めての子供だったので、そんなものかと、夏子さんは心配もしなかった。
写真を見せてもらったことがある。フリフリのワンピースを着せられているのに、頭がつるつるなので、まるで男の子のようだった。
出会い
夏子さんと私は、短歌の会で知り合った。お互い60代が近くなっていた。
いつからそんな話をするほど懇意になったのか。夏子さんはよく、子供の話をした。念願の妊娠であったという。
最初は聞いてもひらめかなくて、何の話だったかと戸惑ったが、いつも冒頭が「なかなかできなかったのよ」なので、もう何が始まるのか覚えてしまった。
そのときどきで、子供が3つのときであったり、もう成人してからのことであったりした。独身で、子供もいない私は、経験がないから想像しては、「なるほど」と相槌を打った。
実際、興味深い話であった。
序章
会わなくても目に浮かべ、すぐ想像することができる。野球場の外野席で、なりふりかまわず大好きな選手に声援を送るおばあさん。頭に応援するチームのキャップを被り、もちろんユニフォームも着ていることだろう。
隣には、母親が年甲斐もなく興奮しすぎて、倒れるのではないかと心配する娘の姿。彼女は、もう中年でいい年のおばさんになっている。母親を気遣って、野球観戦どころではないだろう。